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世襲廃絶法は「正義の看板」か ラサール大教授「資金規制など具体的改革を

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公職の親族継承を制限する世襲廃絶法案が審議されている一方、選挙資金規制など具体的改革が先送りに

 下院議会で現在審議されている政治世襲廃絶法案について、ラサール大のアントニオ・コントレラス教授(政治学)は、その象徴的意義を認めつつ、フィリピンの本質的な政治改革のためには、選挙資金規制や政党規制などの具体的な行政改革が伴わなければならないと警鐘を鳴らしている。世襲廃絶法が「正義の看板」とされる一方、腐敗の仕組みそのものを壊す改革が先送りされてしまっていることに問題提起を促した。17日付マニラタイムズの論説で述べた。

 そもそも1987年憲法で反世襲条項が生まれた背景には、マルコス大統領一族による国家規模の権力独占という具体的な出来事があった。当該条項はこの歴史的背景を抱えた道徳的・象徴的色彩が強いもので、具体的な制度設計は将来の議会に委ねられている。

 現在、世襲廃絶法の議論が再燃していることでコントレラス教授が懸念しているのは、同法案が比の現場レベルの社会構造を無視している点だという。例えば、血縁・姻戚関係を四親等まで広く禁止し、同時就任だけでなく連続就任も禁じ、バランガイから国政まで全レベルで適用するなどの点だ。地方や村落部では、親族関係は社会の組織構造そのものであり、同法案は権力集中の抑制ではなく、地域に根差す普通の住民を排除しかねない。

 コントレラス教授は同法の持つ矛盾も指摘する。反世襲言説は「民衆のため」を装うが、それが前提としている社会像は、核家族で、親族の結びつきが弱い都市中間層に近い。地域の濃密な血縁網から距離を取れるこれらの中間層こそ、親族禁止の影響を受けにくい。改革の名の下に、地縁・血縁を持つ住民を疑わしい存在として扱い、経済力もあり血縁関係に依存しない候補者が「外から降ってくる」ことを有利にしかねない。コントレラス教授はこの観点から、この問題は民主化ではなく構造的排除だとの見方を示している。

 さらに、腐敗改革を嫌がる政治勢力ほど、政治世襲廃絶法を支持しやすいと指摘する。なぜなら、改革を支持することは容易で、世論の怒りを「血筋の問題」に迂回させることができるからだ。仮に法案が頓挫しても「道徳的に正しい立場を取った」と宣言できる。

 有権者にとっても「血縁禁止」は分かりやすく、スローガン化しやすい。複雑な問題を「少数の特権層対多数の民衆」という物語に還元するのも、手法としてはポピュリズムに近いと氏は述べる。

 コントレラス教授は、本当に権力の濫用と腐敗を断つなら、焦点は「誰が誰と親戚か」ではなく、「誰が資源を支配し、誰が説明責任を逃れ、誰が制度を操作しているのか」に移すべきだと強調する。反世襲法案への執着がより具体的で困難な改革から目を逸らす「幻想」になれば、民主主義は劇の演出にとどまり、腐敗は残り続けるという。道徳的な議論だけではなく、実質を伴った制度改革が求められる。(川上佳風)

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