内山安雄のフィリピン&アジア取材ノート第216回 ヘンだけど憎めない人々 その4
日本の最大手の旅行代理店に頼んで、マニラで日本語をしゃべるガイド付きハイヤーをチャーターしてもらったことがある。
マニラ住まいの私に遊びでついてきた日本人の社長連中、片言の英語もダメだから日本語のガイドが必要だった。
運転手をかねたガイドさんが、何日間か我々の観光案内をしてくれる。ある朝、あわてふためいて我々のホテルにやってきた。
「大変なんです、死んじゃったんです!」
何事かと思いきや、田舎の叔父さんが急死したとのこと。
そのことを告げるなり、奴さん、あろうことか、我々をホテルの玄関口に放置し――。
その後の手配をせずに、さっさと故郷のパンパンガに帰ってしまう。
彼にとっては、あるいはフィリピン人にとっては人生の一大事に違いない。なんたって実の叔父さんに死なれたのだから。
ところが日本ではこういう場合――。
後日このことが彼の雇い主である日本の本社で、見すごせない不始末として問題となる。社則やら服務規定に抵触するのだった。憐れなのか当たり前なのか、フィリピンのガイド兼運転手さんは契約を解除されたとのこと。
だが、ここはフィリピン、日本の常識も職業倫理もなかなか通用しにくい。郷に入っては郷に従うということで、妙に納得するしかないのだった。やれやれ。
これまたインドの地方都市の旅行会社で、一日契約のハイヤーをチャーターしてもらったおりのこと。予定をとどこおりなく終了したところで、ひげ達磨の運転手さんが車中で誰かと携帯電話で話しこんでいる。
で、当然ながら私のホテルに送り届けてくれるものと思いきやーー。
あらぬ方向に走り出すではないか。どんどんダウンタウンへ入っていく。ショートカットか? 困惑する私としてはやはり事の次第を問いただし、注意喚起する。
奴さんは無言でステアリングにしがみついているのみ。何やら現地語でブツブツつぶやいている。
じきに到着したのは運転手の自宅ではないか。怪しげな英語でいうにはーー。
「俺のおっかさんが急病なんだ。すぐに病院に連れて行かねばなんねえ。ダンナ、悪いけんど、ここで降りてくれ。じゃあな!」
自分は急いでいるから、私一人でタクシーを拾って帰ってくれというのだ。
彼は旅行会社に雇われているハイヤーの運転手だ。日本でならば、やはりきついお咎めがあっても仕方のないケースだろう。
だが、フィリピンにしてもインドにしても、日本の社会通念が時になかなか通用しにくいようだ。ここは納得するしかないのだろう。やれやれ。








