上院で守衛と捜査員が発砲の応酬 デラロサ氏巡り緊張激化
上院で上院守衛隊長とNBIが32発の射撃の応酬。ICCから逮捕状が出て保護下に置かれていたデラロサ氏は脱出した
デラロサ上院議員が「保護拘置」されていた上院の施設内で13日夕方、複数発の銃声が鳴り響き、混乱状態が発生した。翌14日、大統領府のカストロ広報官は上院守衛隊のマオ・アプラクサ衛視長と、「警備のために」上院に来ていた国家捜査局(NBI)捜査員の間で起こったと発表した。
「麻薬戦争」を巡る人道に対する罪でドゥテルテ前大統領に続きICCから逮捕状が出たデラロサ氏=ドゥテルテ政権で国家警察長官=は、11日に逮捕状発付の報道を受けて上院施設内に保護されていた。ドゥテルテ派を巡る政治的緊張の高まりが、政府実力組織間の衝突という形で表出した格好だ。
デラロサ議員は13日午後、フェイスブックライブで「当局が自分を逮捕しに来るという情報がある。ドゥテルテ(前)大統領に続き、もう一人(ICCのある)ハーグに連行される事態は避けよう」と呼びかけた。事件はその約1時間半後に発生した。
カストロ氏によると、アプラクサ衛視長が上院のある首都圏パサイ市GSISビルの内部にNBI職員が入っていることを確認。衛視長は警告射撃を行い、NBI職員もそれに応じて警告射撃を行った。
数発鳴り響いた銃声は、デラロサ氏の逮捕を予期して集まっていた記者団の待機場所にも響いた。武装した部隊が退避を呼びかけるなど、一時上院施設内は騒然となった。
その後、国家警察を指揮下に置くジョンビク・レムリヤ内務自治相が上院を訪問し、議員らと面会。デラロサ氏を逮捕しに来たわけではない旨伝えた。情報筋によると、デラロサ氏は14日午前2時半ごろに上院を出て、行方をくらました。
カエタノ議長は14日の会見で、デラロサ議員は既に上院敷地内にいないことを確認。2016年の統一選挙ではドゥテルテ氏との副大統領ペアとして立候補するなど、ドゥテルテ派として知られる同議長は、デラロサ氏の「脱出」について、「逃げたと言うのは適切ではない。デラロサ氏は自分を逮捕するために上院が攻撃された事実を鑑みて、これ以上迷惑をかけたくないという思いで去ることを選んだ」と擁護した。
また、レムリヤ内務自治相からの情報として、発砲は計32発で、上院からは27発、反対側からは5発だったことを明らかにした。
▽大統領声明一夜で揺らぐ
事件の夜、マルコス大統領は自身の公式フェイスブックに動画を投稿。デラロサ氏による逮捕差し止め請求を最高裁が受理したことを受け、「NBIには上院から退去するように命じた。NBIのマティパグ長官にも上院にNBI職員がいないことを確認した」とし、「デラロサ氏逮捕を指示したという事実はない」と否定。「侵入しようとしたのは誰だか分かっていない」と述べた。
そして翌朝、首都圏警察はNBIで雇用されている44歳の運転手を容疑者として逮捕していたと発表した。報道関係者の一部からは「哀れな替え玉だ」と嘆息が漏れた。
だがその後に開かれた大統領府による会見では、大統領府のカストロ報道官が「(上院のある)GSIS施設の管理者からの警護要請でNBIは捜査員を派遣した」とし、一転、NBIの捜査員がいたことを認めた。
その上で、「NBI捜査員の配置はデラロサ氏の逮捕を目的としたものではなかった。上院守衛隊はNBI職員の姿を見るや防弾チョッキを着て近づき、座っていたNBI職員に聴取を行い、職員が自己紹介をしたとたん威嚇射撃を行った。だからNBI職員も威嚇射撃をし返すしかなかった」と説明した。
一方、カエタノ議長は「守衛隊は上院内に入ろうとする相手を口頭で警告したが、相手が止まらないのでやむなく警告射撃を行った」と説明した。
施設の警備には国軍海兵隊も動員されている。ブラウナー参謀総長は14日、「国軍の海兵隊員は発砲に関与していない」とし、発砲したのは守衛隊だったと確認。今回の事件については「政情不安を煽る意図は確認できない」とした。また上院施設内に保護されていたデラロサ議員を念頭に「海兵隊の使命は施設の警護であり、個別の議員の警護ではない」と距離を置いた。
▽「国家の弱さ」露呈か
2024年11月には、下院によるサラ副大統領への捜査を妨害したとして下院に拘束されていた副大統領補佐官の身柄を巡り、国軍出向者で構成される副大統領警備班と警察が衝突する事態も発生している。
実力組織間の威嚇射撃の応酬は、ドゥテルテ派とマルコス政権の対立を背景とする政治的混乱の激化を象徴するとともに、国家の実力組織間で連帯・統率が取れていない点では、80年代以来指摘されてきた「弱い国家」の典型という側面が、現代まで残存していることを露わにしたともいえそうだ。








