内山安雄のフィリピン&アジア取材ノート第218回 ヘンだけど憎めない人々 その5
インドの南に位置するスリランカ。長年の宗教をめぐる内戦をとっくに終結させ、アジア屈指の仏教国ということもあり、つい旅の途中で油断しがちになるようだ。
スリランカ最大都市のコロンボ。オフィス街を歩きながら時おり足を止めて街並みや海岸線の写真を撮っていたところがーー。
「もしかして日本の方じゃありませんか。コロンボにはビジネス、それとも観光ですか?」
きれいな英語で話しかけてのは三十代半ばの、バリッとしたスーツとネクタイ姿の、いかにもやり手ビジネスマンに見える紳士的なイケメンだった。歩きながらとりとめのない世間話を振ってくる。話し方にもそつがなく、知性と人柄のよさを感じさせずにおかない。
私が街角でそろそろ別の方角に歩み出そうとしていたところがーー。
「スリランカといえば、なんたって宝石の宝庫です。当然ご存じでしょうけど。まさか宝石の買い付け目的の滞在じゃありませんよね? 実は私、今から宝石の国際見本市に行くんです。主催者側からの特別招待ですから。よろしければ世界トップレベルの見本市を一緒にちょっとのぞいてみませんか?」
下心があるようには見えない。暇なのだから断る理由はない。人力車を呼び止めて向かった先は、商店街にある雑居ビルの一階。
けっ、何が国際見本市なものか。そこは広さわずか十坪ほどの、ありふれた宝飾品の即売会場ではないか。あほくさ。
イケメンに背中を押されて店舗に入るなり、すかさず係の者がお茶を差し出してくる。騙されたとはいえ、まんまと首尾よく連れ込まれたのだから、仕方なくものの一分ほどショーケースをのぞくとはなしにのぞいてみる。すぐに走って退散すればいいものを、我ながら人がいいというか、おバカというか……。
外に出てみれば、我々を乗せてきた人力車が待っていた。
追いかけてきた大柄な詐欺師のイケメンが、私にのしかかるようにしていう。
「おいこら、人力車に金を払え! ずいぶん待たせてあったんだから千三百ルピー(二千円)だぞ。それがこのあたりの相場だ!」
おいおい、相場なら六十円も払えば充分だろう。こやつ、人力車のオヤジとグルというのではない。断じて違う。それなのにいらぬお世話で人力車の料金にまで口出しするとはどういう料簡なのか。よほど人が悪いのか、暇人なのか、まったくもってわけのわからないお節介焼きではないか。
が、ここはスリランカ、我々とは違う常識、価値観があるのだろう。居丈高ではあるが、怒鳴りまくるだけで、腕を振り上げて暴力に訴える様子ではない。
苦笑いして人力車に乗り込み、せいぜい舌を出すしかない私であった。
考えようによっては、パンチが飛んでこなかったのが不幸中の幸いといったところだろうか、やれやれ。








